MVNOがこんだけ安いのにキャリアがつぶれないのはなぜ?
これはいろいろなサービスに当てはまるのですが、極端な例として宿泊施設を考えてみましょう。
たとえば同じ「1泊する」という行為を考えてみても
- 1,000円で泊れる大阪西成の薄汚い簡易宿泊所
- 8,000円で宿泊できるターミナル駅前のビジネスホテル
- 数万もする六本木の外資系高級ホテルの一室
という多数の選択肢があります。
じゃあなんで1,000円で泊れる場所があるのにビジネスホテルや高級ホテルは潰れないんですか?と聞かれたとき、その理由を考えてみましょう。きっとそれが答えです。
1,000円で泊れるドヤを選択する人は価格以外はどうでもいいのでしょう。寒さがしのげて狭くてもチャチャっと風呂に入れて布団が敷いてあればそれでいいのです。
8,000円でビジネスホテルを選ぶ人は、誰もが安心して泊まれるレベルの接客と客層と、ちゃんと使えるキレイなシャワーと、翌朝の朝食が欲しいからそれを選んでいるはずです。
数万円かけて高級ホテルを選ぶ人は、はじめから価格を気にしていません。一流のサービスと一流のおもてなしと、一流のベッドで眠りたいからそうしているのです。
「どこに価値を感じるか・・・」これはそのまんま通信会社選び(SIM選び)にも言えることです。
とにかく安く通信ができればいい、通信手段の確保だけできればいいという割り切った考えの方は回線速度度外視で維持費だけダントツで安い0SIMあたりを選ぶでしょう。
「安いほうがいいけど、できれば多くの人がちゃんと使ってる信頼性のあるブランドがいいな……」と考えるコスパと安定性重視のビジネスホテル派な方はmineoやIIJmioといったMVNOの中でもユーザー数の多いものをチョイスするでしょう。
何もかも任せられて安心して通話と通信ができればそれが一番イイ、と考えるアナタはキャリアで大容量データプランの契約を結んでいることでしょう。
このようにスマホに対する考え方の違いこそキャリアが潰れない何よりの証拠です。
MM総研のデータ※では2018年の時点でMVNOのメインユーザー比率はスマホ利用者全体のたった14%しかありません。MVNOの認知度は89%、内容も知っているという方も50%弱にのぼるなかでこの結果なのですから、キャリアは潰れるどころかまだまだ安泰なのです。
※MM総研「2018年3月格安SIMサービスの利用動向調査」https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1700.htmlより
MVNOってまだ全然マイナーな存在なんだね・・・。
ドコモショップとかの店頭に行くと休日にはかなり混雑しているのがわかるだろう。
キャリアの安心感や知名度の高さは、まだ到底揺るぎそうもないね。
なぜみんなMVNOを使わないのか?
それでも事実としてキャリアよりも安価でスマホやモバイル通信が使えるMVNO。
だったらスマホを使っている人はもっともっとMVNOに切り替えてもいいんじゃないかって思いますよね?
しかし先ほど述べた通り、メインでMVNOを利用しているユーザーは2018年でもわずか13.9%しかいません。
MVNOが本格的に登場してからすでに数年経過しているにもかかわらず、いまだに3大キャリアを使っている方が主流という事実がこの結果からわかります。
なぜいまだにMVNOはマイナーな存在なのでしょうか?その理由は人間行動学を参考にするといくつか考察することができます。
◆乗り換えが面倒(現状維持バイアス)
人は基本的に「できるだけ変化しないですむことを望む生き物」です。
これは「現状維持バイアス」という人間行動学によって説明することができます。
現状維持バイアスとは、現状に多少不満があってもそれを変えることをせず問題を先送りしてしまうことを指します。
MVNOのほうが毎月の料金が安いことは理解していて、回線速度やサポートの質が多少下がってしまうことも受け入れられるのだけれど、いざすぐに行動して乗り換られるかどうかというと「やっぱり後でいいか」とか「時間ないしめんどくさそう」といろいろ言い訳をして行動しないのです。
仕事がツラくて「辞めたい」「転職したいよ~」なんて周りに言っている人ほど転職活動せずにズルズルと働き続けている…なんていうことはよくある話です。
それと同じように「スマホ代高いなぁ」とボヤいている割には今の環境が変わることを恐れてしまい、スパっと決断できずにずっと高額のスマホ代を払い続けてしまうのです。
◆不安要素(損)があるとイヤだから(後悔回避性)
後悔回避性とは、後悔することを避けたいという考え方で意思決定を行うことを指します。
人はとにかく「損(失敗)したくない!」という気持ちが強く働くことが知られており、得(成功)する場合は確実に得(成功)するほうを選ぶのですが、損をする場合はどうにかしてその損を帳消しにする方法を探してしまう傾向があります。
プロスペクト理論というものでは、人はプラス面よりもマイナス面の与える作用のほうを強く受けるということが知られています
たとえばキャリアからMVNOに乗り換えたい場合も
「毎月のスマホ料金が下がる」⇒乗り換えれば確実に得(成功)
「回線速度が遅くなるかもしれない」⇒実際に自分が許容できるかわからない損(失敗)
「サポートが手薄」⇒実際に自分が許容できるかわからない損(失敗)
というように「自分が損(失敗)するかもしれない事柄」が含まれる場合、自分のスマホ環境が変化することに抵抗を覚えるのです。
「毎月のスマホ代が下がる=確実に得する」だけならみんなとっくに乗り換えていてもおかしくないでしょう。しかし、その裏で回線速度の問題やサポートの問題、APNの設定や中古スマホを探し方がわからないなどのネガティブな(損する)可能性がある限り「よくわからないし失敗すると怖いからやっぱりキャリアのまま(今のまま)でいいや」という心理になるのです。
こうした理論やバイアス(偏見)によって、人間は合理的ではない判断を下すことがとても多いです。
使い方や利用頻度などを総合的に考えて「MVNOにしても何ら問題ない」というユーザーでもいまだにキャリアの割高なプランのままだったりするのは「自分の環境が変化することに抵抗を感じているから」なのです。
「スマホ代は高いほうが偉いんだ!」とか「お金をたくさん使いたいからキャリアを選んでいます!」という風変わりな人間がいる可能性も否定できませんが、この不景気な世の中でなかなかそういった考えを持つ人はいないでしょう。
筆者もユーザー全員がMVNOにする必要はさらさらないと思いますし、絶対にそういう時代は訪れないと思っていますが、ちょっとでもMVNOに興味があるなら「一歩先に踏み出す勇気」を大事にして欲しいかな、と感じています。時には合理的な判断をする必要もあるのですから。
確かに安いとわかっていても乗り換えるのはメンドクサイんだよねー。やり方も良く知らないし・・・。
スマホに限らず今の環境から変化することに抵抗を持つ人はかなり多いぞ。
コツとしては長期的な目線で支出額を算出してみることだな。
1年単位で考えると万単位のお金のロスに気づくことができるからね。